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風の中に誰かいる

  • メタコイノン
  • 2025年12月28日
  • 読了時間: 3分

更新日:2025年12月29日

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写真1:「ハンモック」と「風を封じる袋」

(phote by Wataru Koyama)


2025年12月21日、13時過ぎ。

新電気神殿メタコイノンにて、新たな試みとしての「神殿デコレーション」を始めようと、ひとつのプレ企画が立ち上がった。


これまで神殿では、四元素――地・水・火・風――を暦に沿って巡らせてきた。

4月から6月は地、7月から9月は水、10月から12月は風、1月から3月は火。

そのタームごとに、バシュラールの思考を参照しながら、力学的であり、同時に空想的な実践を重ねてきた。


毎月第3土曜日、神殿はひらかれてきた。

しかし、私的な事情と移転を理由に、2025年4月からその営みは一度途切れる。

長い空白ののち、新たな物件が見つかり、屋上という空に近い場所で、ようやく活動は再開された。

それは再開であると同時に、はじまりでもあった。


これまでのデコレーションは、管理人ゼウスのほぼ単独によるものだった。

その運動は、もっぱら垂直方向へと伸びていく。

高く、高く。

だが、上昇の先にはいつも墜落が待っていた。

上空へ舞い上がり、すぐに地へ引き戻される――イカロスのような反復。


そこで今回は、他者とともに手を動かすことにした。

垂直だけでなく、水平方向へも力を投げるために。

それでもなお、神のための儀式であること、身体を通して空間を生成する行為であることは変わらない。

垂直の勢いは失われてはならない。


今季のテーマは風。軽さと重さ、浮遊と落下、そのあわいを操ること。

精神科医ビンスワンガーが語った、人間学的平衡――

崩れそうで、しかし崩れない、その均衡を、風の力学と想像力のなかで探っていく。


こうして「神殿デコレーション pre vol.1」として、

12月、風のタームに、東風の神エウロスが招かれた。


エウロスは暖気と雨を運ぶ。

逆さにした壺から水をこぼす姿が、その象徴だ。

この日、12月21日は、前日より6度も高い異様な暖かさで、久しぶりの雨が降った。

これぞとばかりに。


昨年、エウロスはこの旧神殿で、横たわる人々の顔に水を注いだ。

こぼし、満たし、濡らす行為として。

今回は屋上の神殿に「ハンモック」が吊られた。

そこに横たわるための枕として、「風を封じた袋」が用いられた。


風の支配者アイオロスは、ゼウスから託された袋に、

四方八方の風――北風ボレアス、南風ノトス、東風エウロス、西風ゼピュロス――を閉じ込め、管理した。

オデュッセウスに袋を手渡す場面には、神々の思惑が人の運命を揺さぶる寓意が刻まれている(絵1)。

この神殿がその教えを受けていたのかどうかは分からない。

ただひとつ確かなのは、エウロスが、枕としてその袋をつくったということだ。


吊られた「ハンモック」は、神話の海へ漕ぎ出す「アルゴー船」のようだった(絵2)。

地中海を渡った航海者にとって、風は命そのものだった。

追い風は前進を与え、逆風は停滞をもたらし、嵐はすべてを奪う。

だから彼らは、出航前に風の神々へ祈りと供物を捧げた。


風は、意志であり、運命だった。

新しい神殿の始まりに、これ以上ふさわしい光景はない。いざ、出航。


揺れる

眺める

引っ張られる

包まれる


弾性を感じ

風を感じ

神の怒りや吐息を感じる


山の中で口笛を吹いて

眠っている風の安眠を妨げてはならない


風の中には

いつも

誰かがいる



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絵1:エウロス風をオデュッセウスに与えて アイザック・モイヨン(Wikipedia)


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絵2:アルゴー船 コンスタンティノス・ボラナキス (Wikipedia)


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絵3:十字架降下 ポントルモ(wikipedea)

 
 
 

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