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火鴨が焼葱を背負ってきた

  • 3月10日
  • 読了時間: 4分

更新日:3月17日



新電気神殿メタコイノンにて、新たな試みとしての「神殿デコレーション」という、ひとつのプレ企画が立ち上がった。




これまで神殿では、四元素――地・水・火・風――を暦に沿って巡らせてきた。


四月から六月は地。

七月から九月は水。

十月から十二月は風。

そして一月から三月は火。


それぞれのタームにおいて、ガストン・バシュラールの元素的想像力を参照しながら、空間と身体の実験を重ねてきた。それは力学であると同時に、空想の実践でもある。

これまでのデコレーションは、管理人ゼウスのふりをしたイカロスの、ほとんど単独の仕事だった。

その運動は、常に垂直へと向かう。

上へ。

さらに上へ。

垂直とは、人間にとって危険もあり、神話的な方向である。

上昇の先には、必ず墜落がある。

空へ舞い上がり、すぐに地へと引き戻される。

やはりイカロスはイカロスである。


そこで今回は、他者とともに手を動かすことにした。

垂直だけではなく、水平方向へも力をひらくために。

それでもなお、この行為は神のための儀式であり、

身体を媒介として空間を生成する試みであることに変わりはない。

垂直の衝動だけは、失われてはならない。




今季のテーマは火。


火は、はじまりの徴である。


エネルギーと活力の源。

暖炉。

家族。

そして、密かに盗み出されるもの。


火とは、人間が神から奪い取った最初の技術であり、同時に最初の神学でもあった。

何かを始めようとする、その最初の一歩。

そこには、人には知られざる秘儀が必要とされる。

火を起こすとは、その秘儀のひとつである。




こうして「神殿デコレーション pre vol.2」として、

三月の火のタームに、暖炉の神ヘスティアが招かれた。

そのほかにも、気の知れた身近な神々が駆けつけた。


ヘスティアの名は「炉」「暖炉」「祭壇」を意味する。その語源は、「燃やす」「住む」「夜を過ごす」「滞在する」という動詞の連なりに由来する。

さらにオイコス――家族、世帯、家――を守る神でもある。


古代の家は、壁によってではなく、火によって家であった。

炉があるところに、人は住み、食べ、眠り、そして死者を思った。

暖炉の消えてしまった現代の住処において、失われつつあるのは、この意味での火なのかもしれない。


新神殿では、まだ焚き火をすることができない。

それでも、なぜかほっと暖かくなる。

人が集まり、食卓を囲み、同じものを食べる。

それは、火を囲むという古い儀式の、別のかたちである。


火を感じるとは、関係性の距離を感じることと似ている。

人が多すぎれば、後ろの方には火の暖かさが届かない。

火に近づきすぎれば、やけどをしてしまう。

家族であっても、そうでなくても。

火には、ほどよい距離感があるのだろう。




ヘスティアは、「鴨雑炊」をつくるという。

鴨をIHヒーターで熱したフライパンで焼き、だしをとった湯に家庭の秘伝を加えて、だし汁をつくる。

詳しいレシピは、そちらを参照してもらうことにする(※)。


神様たちは、同じどんぶりの飯を食らった。


火にあぶられた鴨。

三つ葉。

ぽろぽろの卵。

つけ置きした椎茸。

秘伝のだし汁。

そして焼き葱。


何より美味いのである。


ひとつのテーブルを囲み、五柱の神様が話をしながら箸を動かす。

椀に入れ、口へ運ぶ。

その反復。

この動作は、火を起こすことに似ている。

反復のあいだに、少しずつ火の子が生まれる。

それらが食道を越え、胃へと届くころ、心にぽっと火が灯る。

最後に、椀に口をつけて雑炊をすする。

心も、体も、暖かくなる。


ふと血族や祖霊のことを考えると、

このような神々との暖かい食卓は、まるで火遊びのようだ

そこで生活していた亡き住人の食卓を勝手に利用している

まるで住人の火を神々が盗むという、

プロメテウスの逆コンプレックスみたいに思えてくる

この暖かい火は、徐々に大きくなっていき

コントロールできない炎にかわり

逆流性食道炎、まさに喉が焼かれていく。


食後にアルコールを飲むと

身体の内側の暖かさが、なぜか外側に動いていく

すると内側は冷え、外側は暖かくなっていく

神々が盗んだ火を住民の場に返していくように。




気づけば、次の土のタームの話までできてしまった。

「鴨が葱を背負ってやってきた」のだ。


人間であるイカロスは

神の使者であるヘルメスになりたいと願っている。

垂直と水平のあいだを行き来する、あの神様のように。

 
 
 

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